特別寄稿


     平成8年12月発行 No.65
     題 目 STEPの最新動向
     執筆者 杉村 延広 氏 大阪府立大学 工学部 機械システム工学科 教授

    概 要

     STEP(Standard for the Exchange of 
    Product model data)はISO10303Indust
    rial Automation Systems and Integr
    ationーProduct Model Representation
    and Exchange(産業オートメーション及びその統合ー製品デー
    タ構造の表現及び交換)の国際規格の通称であり、製品のライフサイクルに
    おけるプロダクトモデルデータ交換及び共有に関する標準データ構造を規定
    するものである。
     STEP規格では、単にプロダクトモデルの論理的なデータ構造及びデー
    タの交換媒体における物理的なデータ構造以外に、論理的なデータ構造を形
    式的に記述するための言語(EXPRESS、及びEXPRESS−G)、
    論理的データ構造を物理的なデータ構造に変換する枠組み、STEP規格に
    従ってプロダクトモデルデータを交換する処理システムを検証するための手
    法等についても規定している。
     STEPのモデルを用いたデータ交換あるいはデータ共有は、図1におけ
    るアプリケーションプロトコルごとに行う。すなわち、STEPのユーザは、
    アプリケーションプロトコルのデータ構造に基づいてプロダクトモデルデー
    タの交換あるいは共有を行う。このアプリケーションプロトコルは、統合リソ
    ースの中のプロダクトモデルの構成要素の中から、ある応用分野に必要な構
    成要素を集めたものである。
     STEPで考慮している範囲が非常に膨大なために、STEPの規格文書
    (ISO10303)は、複数の部(Partと呼ばれる)に分割されてい
    る。Partの内、これまでにIS(International Sta
    ndard:国際規格)となったものを表1に示す。
     STEPの開発は今後も継続され、完成したPartから順次IS化され
    ていく。

表1 国際規格となったSTEPの内容
PartNo.Title
 Part1Overview and fundamental principles
 Part11Description method:EXPRESS language reference manual
 Part21Implementation method:Clear text encoding of the exchange structure
 Part31Conformance testing methodo1ogy and framework:General concept
 Part41Integrated generic resource:Fundamentals of product description and support
 Part42Integrated generic resource:Geometric and topo1ogical representation
 Part43Integrated generic resource:Representation structure
 Part44Integrated generic resource:Product structure configuration
 Part46Integrated generic resource:Visual representation
 Part101Integrated application resource:Draughting
 Part105ntegrated application resource:Kinematics
 Part201Application Protocol:Explicit draughting
 Part202Application Protocol:Associative draughting
 Part203Application Protocol:Configuration controlled design


図1 STEP規格の構成


     平成8年10月発行 No.64
     題 目  バーチャルリアリティとCADへの応用
     執筆者  小堀 研一 氏 大阪工業大学 情報科学部情報処理学科 教授

    概 要

     VR(Virtual Reality)は日本語で仮想現実感、あるいは
    人工現実感といわれているメディア技術であり、人間の五感に感覚情報を伝達
    させて、実在しない空間や遠隔にある空間を人間の意識の内部に存在させ、そ
    こでの行動を可能にする技術のことを言う。そのためには人間が存在するため
    の仮想環境が自然な三次元空間を構成しており(臨場感)、仮想環境との相互
    作用が実時間で行われ(対話性)、人間の操作に対する仮想環境が自律的に反
    応する(自律性)ことがVRを構成する要素として上げられる。
     VR技術を応用したCADシステムとしては図1のような構成が考えられる。
    このシステムでは、運動状態を計測する入力技術、仮想世界の情報を視覚、触
    覚、聴覚の感覚として提示する出力装置、コンピュータ内で製品としてふるま
    う仮想モデルのシミュレーションの3つの要素から成っている。
     筆者の研究室で開発した仮想物体の造形モデラを図2に示す。立体視表示に
    は液晶シャッター方式の両眼視差による視覚提示装置を用いている。操作反力
    を実現するために3自由度のジョイスティック型の入力装置をを開発した。操
    作反力を与える方法は可動部であるスティックとプラスチック製の球にブレー
    キをかけ、手に負荷を与えるものである。三次元画像のリアルタイム表示を実
    現するために、三次元GWSを利用し、操作を行う手の動作計測には3SPA
    CEを用いる。仮想世界をシミュレーションするモデルとしては変形操作等の
    幾何演算が高速、かつ正確に行える空間分割モデルを拡張したオクタントモデ
    ルを導入している。
     デザイナーは仮想の発泡スチロールを立体視し、種々の仮想道具(ドリル、
    カッター等)を用いて切削、あるいは盛りつけていく。道具はジョイスティッ
    クで操作し、道具が仮想の発泡スチロールに接触すると、ジョイスティックに
    反力がかかり、デザイナーは現実の素材を削っている感覚で造形を行える。
     VRは人間と機械が関わるインタフェースとして幅広い分野で利用される技
    術であり、現実を実在させることなく、仮想体験できる。