| 1 | 研究の概要 |
| 2 | 電子ファイル版データベースの編集作業 |
| 2.1 | 水素圧力−組成−温度(PCT:Pressure-Composition-Temperature)特性線図のデータシート作成 |
| 2.2 | データシートの整理 |
| 2.3 | データの検索方法ならびに提供方法 |
| 2.4 | 将来における「水素吸蔵合金データベース」 |
| 3 | まとめと今後の課題 |
石油の大量消費によって現在文明は支えられてきたが、一方では、二酸化炭素などによる地球温暖化や排ガスによる環境汚染、石油資源の枯渇などの深刻な環境・エネルギー問題に直面している。これらの問題を解決できる再生可能なクリーンエネルギーシステムとして、1970年代から水素エネルギーシステムが提案され、世界の先進各国において実用化のための国家プロジェクトが推進されてきた。我が国では、石油危機の後、1975年頃からサンシャイン計画の一環として、水素の製造及び輸送・貯蔵、利用技術の研究開発が開始され、水素の安全、かつ、コンパクトな貯蔵技術として水素吸蔵合金の研究開発が推進されてきた。1985年頃からは、水素吸蔵合金を二次電池に利用する研究開発が実施され、1990年には世界に先駆け我が国でニッケル・水素化物二次電池の商業生産が開始された。また、水素吸蔵合金を化学ヒートポンプとして利用して、低温廃熱を高効率で回収・輸送し利用する「エコ・エネルギー都市システム」プロジェクトなども実施され、ノンフロンの冷凍システムなどでの実用化が進められている。1992年頃からは世界的なネットワークで水素エネルギーの供給・利用システムの確立を図る「WE-NET」プロジェクトが開始され、水素燃料電池自動車などでの利用をめざして、軽量な貯蔵用合金の研究開発が推進されている。このように、水素吸蔵合金は、新しいエネルギー貯蔵・変換材料として、電池産業や情報通信産業はもとより、次世代自動車産業でもキーマテリアルとなっており、その利用技術の更なる進展を図るためには標準化やデータベース化などの産業基盤整備が必要とされている。
現在、水素吸蔵合金の利用が進んでいるニッケル・水素化物電池では、従来のニッケル・カドミウム電池に比べて2倍以上の高容量化を実現し、また、環境調和性にも優れるため、汎用の小型二次電池として生産量が急増しており、商品化のわずか10年で販売金額約1100億円、販売数量約10億個(2000年統計)と、従来のニッケル・カドミウム電池を金額及び数量で大きく超えた産業に成長している。現在、我が国は世界生産量で90%のシェアを有しており、国際競争力の強い分野として電池産業の牽引力となっている。この電池用途に用いられる水素吸蔵合金は、年間6000トン以上と推定されており、その生産量は今後とも急ピッチで拡大してゆくものと予想されている。また、1997年12月より高出力ニッケル・水素電池を搭載してガソリン燃費を2倍に向上させたハイブリッド自動車トヨタ「プリウス」(1500cc)の商業生産が開始された。現在、月産1,500台で生産され、累積販売台数は5万1千台(2000年12月)に達している。また、1999年11月から、同様なニッケル・水素電池を搭載して燃費をガソリン1g当たりで35kmまで向上させたホンダ「インサイト」(1000cc)が商品化され、月産300台で生産されている。今後、ハイブリッド自動車は省エネルギーで低公害な次世代自動車の本命として生産量の急増が予想されている。さらに、次世代クリーンエネルギーとして水素やメタノールなどを用いる燃料電池自動車の開発も進められており、ハイブリッド用ニッケル・水素電池及び水素貯蔵用タンクでの水素吸蔵合金の利用が期待されている。
水素吸蔵合金の利用技術としては、@水素を常温常圧でコンパクト、かつ、安全に貯蔵する水素貯蔵システム、A水素化時の大きな反応熱を利用したノンフロン冷暖房システム、B水素放出時の水素圧を利用したケミカルアクチュエータ、C電気化学的な水素貯蔵・放出を利用した水素電池システム、などがあり、これまで以下のような「試験・評価方法の標準化(JIS化)」が進められてきた。1)水素吸蔵合金用語(JIS H7003-1989), 2)水素吸蔵合金の圧力-組成等温線(PCT線)の測定方法(JIS H7201-1991), 3)水素吸蔵合金の水素化速度試験方法(JIS H7202-1995), 4)水素吸蔵合金の繰り返し水素ガス吸蔵・放出特性試験方法(JIS H7203-1995), 5)水素吸蔵合金の水素化熱測定方法(JIS H7204-1995)。また、6)「ニッケル・水素電池用合金の基礎特性を試験評価する方法の標準化に関する調査」が平成4年から進められ、平成9年度にはJIS原案が提出されている。
水素吸蔵合金のデータベースとしては、古くは昭和59年度に刊行された「水素吸蔵合金利用開発委員会調査研究報告書」(大阪科学技術センター)があり、約340件の水素吸蔵放出曲線を収録して実用性は高いが、電子ファイル化されていないため、一般での入手や利用は困難となっている。1996年からIEA(国際エネルギー機関)水素実施協定の国際共同研究事業(タスク12)の一環として、米国Sandia国立研究所水素情報センター(担当者;G. Sandrock & G. Thomas)が中心となって、水素吸蔵合金の諸特性に関するデータベース化を行い、インターネットのWebサイトに公開されている。これまで1865件のデータが登録されているが、文献情報からの数値データの収録にとどまっており、@システム設計・開発者が必要としている水素吸蔵放出特性カーブが含まれていない、A測定方法が規格統一されていないためデータの直接的な比較が困難であるなど、利用サイドからの問題点が指摘されている。
水素吸蔵合金を利用した産業分野の広がりは大きく、また、開発される水素吸蔵合金も多種多様になっているが、産業の活性化や新産業の創製に寄与しうる産業技術基盤の整備は十分でないのが現状である。そこで、本事業では、異業種からの参入を促進し、実用化研究の一層の進展を図ることを主な目的として、水素吸合金材料及び利用技術に関する第一線の専門家を産学官から結集して、1)システムの設計・開発に活用できる実用的諸特性(水素吸蔵放出特性カーブなど)に関しての電子ファイル化とデータベ―ス構築、2)実用的な標準合金の選定と標準的評価方法を適応しての実測データの収集、に重点を置いて実施した。
1)データの電子ファイル化とデータベース構築(担当;田中秀明委員)
水素吸蔵合金の水素圧−組成−等温線図(PCT線図)に関しては、膨大な量の学術・技術文献に報告されているが、その測定方法や単位系が統一されていないため、直接的な比較とシステム設計への利用が困難であった。そこで、大阪工業技術研究所の 田中秀明主任研究官を中心として、測定方法の信頼性が高い文献データ300件程度を選定して、そのPCT線図の単位系を統一して、これを電子ファイル化する作業を実施した。これを合金組成や評価機関などで検索できるようにしてデータベース化した。
2)標準合金の選定と標準的評価方法での実測データ収集(担当;角掛 繁委員)
委員会において代表的な実用合金8種類を選定して、JIS H7201-1991「水素吸蔵合金の圧力―組成等温線(PCT線)の測定方法」、JIS H7202-1995「水素吸蔵合金の水素化速度試験方法」、JIS H7203-1995 「水素吸蔵合金の繰り返し水素ガス吸蔵・放出特性試験方法」を適応しての実測データの収集を、日本重化学工業に委託して実施した。さらに、上記の標準的評価方法の実用システムでの信頼性を確認するために、小型水素貯蔵ユニット(日本重化製)を用いて吸蔵・放出速度の測定を行い、データ収集を行った。
2. 1 水素圧力−組成−温度(P-C-T:Pressure-Composition-Temperature)特性線図のデータシート作成
前年度の委員会における議論の中、水素吸蔵合金の利用促進を図るには、過去に無数に開発されてきた多種多様にわたる合金系の中から、利用者の利用目的に即した合金を容易に選択・抽出できるよう、扱い易い形態での適当な判断材料を提供することが重要とされた。また、その判断材料は、水素吸蔵量や平衡解離圧以外にも極力多範な情報を含めた形で、多くの者が享受できる様式とすることが望ましいとされた。データベースが多くの利用者にとって活用し易い内容たり得るには、@掲載データ数が多く、集録データ内容が多岐にわたること、Aデータ相互間の比較が容易であること、B多くの利用者が閲覧可能な環境に配備されること、C内容が必要以上に煩雑でなく、閲覧者にとって理解し易い構成となっていること、Dデータの内容が逐一更新され、常に最新情報が提供されていること、等が理想である。
そのような中、当委員会において、知的基盤データベースの作成に当たって本年度に作業を進めるべき課題として、以下 のものが挙げられた。
本年度の事業としては、これら作業の成果をデータベース化し、インターネット等の情報伝達媒体を通じての提供を図ることとなった。(1)に関して言えば、諸文献に掲載のPCT特性線図について、電子ファイル版として復刻したデータシートを作成し、その集積体であるデータベースの完成を目指すこととした。以下、本項では、(1)に関する作業の詳細を説明する。
(1)資料の選定
PCT特性に関する電子ファイル版データベースの作成に当たっては、昨年来、「その水素吸蔵合金のPCT特性が最初に報告された文献」もしくは「統一規格化された測定基準(日本工業規格等)に則って測定された結果」「新規合金系に関する報告」を、積極的に採用・収録することが検討されてきた。最終的には、昭和59年度に(財)大阪科学技術センター水素吸蔵合金利用開発委員会より発刊されたデ−タベース「水素吸蔵合金利用開発委員会調査研究報告書」)及び大角により編集された「水素吸蔵合金データブック」)、田村らにより監修された「水素吸蔵合金」)おける引用資料を中心に、電子ファイル化を進める合金系を選定することとなった。更に、現在までに報告されてきた合金系のPCT特性線図の殆どを網羅するために、上記資料に加え、これら資料には未掲載のごく近年に報告されたNa-Al系、軽元素含有系等の新規材料に関する特性線図を適宜追加することとした。なお、炭素材料系に関しては、PCT特性に関する報告例が僅少であることに加えて、その信頼性についても今なお議論の渦中であることから、今年度の収録は見送ることとした。
一方、米国エネルギー省(DOE:Department of Energy)及び国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)主導の研究プロジェクトに沿って編集及び公開され、現在なおバージョンアップが逐一続けられている水素化物データベース集(これに関する説明は、本データベースを公開しているURL)、ならびに昨年度の本事業の報告書)を参照のこと。)に関しても、掲載されている文献の調査に加え、国際貢献の一環としての相互リンクの構築等について、昨年来その内容が吟味されてきたが、今年度に関してはDOE- IEAデータベースとのリンク構築は時期尚早と判断し、データベース構成方法を検討する上での重要参考材料とするにとどめた。
(2)資料入手と著作権問題について
掲載に供する諸資料の入手に関しては、論文等を投稿した各研究者から数値データを譲り受けて、それに基づいてグラフ化を進めることが理想的であるが、実際問題として、収録するデータ数等を考えるとそれは殆ど不可能に近い。そこで、PCT特性が報告されている資料は、Journal of Less-Common Metals、Journal of Alloys and Compounds、Inorganic Chemistry、Journal of Physical Chemistry等一部の学術論文誌に偏在していることから、これらより適宜複写・編集して用いることとした。一部に既に原典の入手が不可能となっているのものも存在するが、これらについては“孫引き”で対処することとした。文献の複写、模写及びその作成品の公開については著作権に絡む問題が発生するが、これに関しては、事務局より「著作権者から編集、掲載及び公開の承認を書状を通じて取り付ける」との見解が示された。
諸資料(論文、報文、特許、技報等)の入手に際しては、原典を可能な限り入手するようにし、データの内容及び信頼性の再確認も併せて行うこととした。更に、作業の進捗に合わせて、上記のものに加えて、各種学術学会の講演予稿集や論文誌、企業の発行する技術報文、国内外の特許等から最新のデータを導入するよう図った。なお、データベース作成時に収集した文献原典及び諸資料は、データベース利用者の要請等に応じて適宜引き出せるように、現在、大阪工業技術研究所において全て保管されている他、入手資料一覧表を作成することで、簡便に必要なデータを取り出せるように便宜を図っている。なお、この表の一部は、データベース検索用目次として活用されている。
(3)PCT特性線図の電子ファイル化作業
各種文献に掲載されているPCT特性線図は、近年に報告されているものこそかなり様式が揃ってきているが、比較的年式の古いのものにおいては多種多様な単位が混在しており、特性を単純に視覚的に比較することさえ容易ではない。このことから、全員が必ずしも水素吸蔵合金の専門家ではないとみられるデータベース利用者の立場からすると、旧年来報告されてきた特性線図は極めて判読しづらいものであると想像するのは難くない。加えて、これまでのデータベースの殆どは冊子の形で提供されており、しかも実際のところ、それらはごく一部の限られた研究機関等でしか閲覧することができない現状にある。本事業の趣旨は、水素吸蔵合金の特性を理解し易い形で広く産業界や学術界に提供することであるから、データベースの作成に当たっては、その目的に即した様式に特性線図を変換し、その提供を図ることが、事業遂行の上で必要不可欠である。そこで、本事業において編集されるデータベースの提供方法としては、対象となるPCT特性線図の全てを電子ファイルに変換し、それを近年普及が著しいインターネットの活用して無償公開することを前提に検討することとした。また、希望する機関にはCD-ROM形式を通じてデータを提供することも検討することとした。
基礎データシートの作成方法及び収録する諸データの内容については、分科会での協議の結果、以下のように決定された。
これらに従って、以下の作業が進められた。
@オリジナルデータの読み込み
原典におけるPCT線図一式は、コンピューターに接続したスキャナを通じて読み取られた後、生データのままでオリジナル電子ファイルとして仮保存された。線図の複写及び読み込みの際、多くの場合、画像の歪み等の影響を受けるが、この問題については保存前に画像処理を行うことにより概ね回避できた。このオリジナルファイルは、描画用ソフトウェアを用いて等寸大に模写された後、その縦横寸法比を予め決定された規格に変更された。
ASI単位系への変換
縦軸(水素圧力軸)は、極力 [MPa] 単位に統一して表示することとした。圧力単位の変換については、以下の換算基準に沿って行った。
1 [atm] = 1.01325×105 [Pa] = 0.101325 [MPa] ≒ 0.1 [MPa]
1 [bar] = 1.0×105 [Pa] = 0.1 [MPa]
1 [kg/cm2] = 1 [kgf/cm2] = 9.80665×105 [MPa] ≒ 0.1 [MPa]
圧力単位 [atm] の変換の際、厳密には1 [atm] = 0.1013 [MPa] であるが、模写したグラフ上で13/1000 [MPa] の差を反映させるのは困難であり、また文献原典においても実質1 [atm] = 0.1 [MPa]として扱っていることから、ここで作成するデータシートにおいても全て1 [atm] = 0.1 [MPa] と近似して扱うこととした。一方、単位[Torr](=[mmHg])については、
1 [Torr] = 0.1333 [kPa] (760 [mmHg] = 0.1013 [MPa]と近似して換算。)
であるが、ここで単に1[Torr] → 0.1[kPa]と換算すると実際データとの差異が33%にも及ぶことから、対数軸表示の場合におけるこの単位に限り、未変換の状態で使用することとした。その他、単位・数値変換が困難なもの(圧力(√bar等の非対数型式のもの等)については、変換せずそのまま掲載した。
横軸(水素吸蔵量軸)は、H/Mとwt%の併記とした。学術上は水素含有相における被吸蔵水素と合金構成金属の原子数比を意味するH/Mの方が有用と思われるが、国内外の各種プロジェクト等における水素吸蔵量目標値がwt%単位にて示されているように、実用上はwt%の方が有用と判断されるからである。また、H/Mの意味については、「水素吸蔵体AaBbHxにおけるx値」としているものや「被吸蔵水素と合金構成金属の原子数比」としているもの等、資料毎に定義がまちまちであったが、本データシート上では全て後者をH/Mとして扱うこととした。また、ここでも、単位・数値変換が困難なもの(√(H/M)等の無理数形式のもの、対数表示のもの等)については、目盛り変換せずそのまま使用した。
また、線図内に記入する温度は、[K]よりも一般に馴染みの深い[℃]を採用した。
(4)データシートへの収録データ内容
PCT特性線図データベースの利用に対する利便性をより高め、ひいては水素吸蔵合金の利用普及を図るためには、線図以外の掲載項目を多くし、その水素吸蔵合金の作製や測定前処理に関する情報をより広範に呈示することで、誰しもが各データシートに示されているPCT特性を得られるように便宜を図ることが望ましい。
そこで、関連情報データ一覧表の作成についても特性線図の規格化と並行して進めるべき重要な作業と位置付け、編集を進めた。本年度の作業としては、PCT特性線図以外のデータとして、文献1)に倣い、PCT特性に特に関連深いものとして以下の項目を付記することとした。
@合金の化学式
A平均原子量(=合金分子量を総原子数で除した値)
B原料金属の純度
C合金作製方法
D合金化後の厳密な組成
E測定に供したH2、D2の純度
F試料に対する測定前処理条件(熱処理ならびに初期活性化処理の条件)
G水素化物生成・解離エンタルピー及び同エントロピー
平均原子量の計算には、アグネ最新元素周期表)に掲載されている原子量値を採用した。元素でないMm(ミッシュメタル:ランタノイド系金属の未分離混合物)を含む合金については、Mmの暫定原子量として140.4979(=原子比でLa:25.4%、Ce:53.6%、Pr:5.4%、Nd:15.6%)に相当する値)を用いて計算した値を使用した。これより得られる値に基づき、水素吸蔵量wt%を導出した。
また、水素化物生成・解離エンタルピー及びエントロピー値についてもSI単位系表記とし、各々[kJ/molH2]及び[J/molH2・K]に換算して掲載した。
データシートファイルの保存形式については、ネット上に公開する上で利便性の高いPDF形式)とすることが、分科会における協議の結果、了承された。
平成13年2月28日時点で提供可能なデータシート数は、総計300件強に上る。
これらのデータシートには、通し番号を付して文献リストに登録した。このリストについても、データシートとは別ファイルとしてネット上にて公開する予定である。更に、このリストを基に目次を作成し、データシート検索の際の便に供することとした。
なお、データシート左上に表示される通し番号の中には幾つかの空き番号が存在するが、これは単に編集過程における都合の結果であり、データシート検索上は全く問題無く、データベースとしての価値を損ねるものではない。
作成した多くのデータシートの中から如何に効率良く、各利用者が必要なものを検索・抽出できるように配慮するかが、データベースとしての利便性及び有用性を決定付ける。そのためには、操作し易い検索方法を工夫する必要がある。
本年度の場合、合金化学式あるいは含有元素からデータシートを検索できる形式とすることとした。即ち、@文献リストを元に作成した「目次」から読み出したい合金の「化学式」の欄を選択すると、そこにリンクしたPCT特性データシートが自動的に開く、あるいは、A元素周期表若しくはプルダウンメニューの中からある元素を指定するとそれを含む合金が全て提示され、その中から必要な合金の「化学式」を改めて選択する、といった形式を想定している。
上記のような手順を経て作成された電子ファイル化された水素吸蔵・放出特性データシートは、インターネット等の情報伝達媒体を通じて、利用者に提供される。
今後更に充実した内容のデータベースの構築を目指すには、今年度以後もデータの更新作業を逐一続けていくことが必須であるが、最終的には諸方面(運営者、利用者、著作権者、等)の意見を頂戴しつつ対応することとしたい。次年度以後については、本年度の事業成果を敲き台として、機会ある毎に更新を加えて行くことが望ましいと思われる。
また、作業期間の都合上データベースに収録し切れなかった文献データについても、検索用の目次にだけは掲載しておき、当該文献データについてのユーザーからの請求があれば、その都度(財)大阪科学技術センター側から情報を提供する形態をとることも、将来的には検討されてよいと思われる。
今後も更に、CD-ROM化や各機関への宣伝・広報活動等の作業が続くが、これらは本データベースの有効活用、ひいては水素吸蔵合金の普及を図る上でも必要なものであり、関係各位の協力に期待したい。
本事業は、産学官の第一線の専門家が連携して、その英知を結集して完成したものであり、@実用的なデータベースの構築、A標準サンプルの選定、B標準的な評価データの収集、など世界的にも例のない成果となっている。
平成10年度には、合金材料及び利用技術に関する専門家から分科会の委員を選任して、水素吸蔵合金データベース化の目標の明確化と課題の選定を行った。
平成11年度には、1)既存のデータベースの調査を行い、問題点の摘出を行い、今後のデータベース構築の指針を得るとともに、2)合金標準サンプルを選定して、モデル的な合金特性評価ユニットを用いての実用的な特性データの収集を開始した。
1)既存のデータベースとしては、1985年に当センターで発行した「水素吸蔵合金利用開発委員会調査報告書」があり、これには約340サンプルの水素圧―組成―等温線図(PCT)を収録しているが、@データの信憑性の吟味が十分でない、A単位が統一されていない、B電子ファイル化されていない、C内容が更新されていない、D入手が困難、などの問題点が指摘された。また、国際的なデータベースとしては、インターネット上で公開されている「Hydride Information Center」があり、約1865件のデータが収録され、検索機能や更新機能などかなり充実した内容となっている。しかし、@実用的な価値の高いPCT線図が収録されていない、A各種の文献情報の集積であり、測定方法が統一された標準データとはなっていない、などの問題点が指摘された。
2)実用的な特性データ収集を目的とした合金特性評価ユニットとしては、熱交換チューブを内蔵したステンレス製の容器(内容積576cc)を試作した。これに合金粉末(合金量2〜2.5kg)を充填して、熱媒の温度を変化させて水素吸蔵及び放出速度の測定を行った。この場合、反応速度に影響を与える因子としては、@測定温度、A合金の平衡解離圧、B合金組成や粒度、表面状態などの合金特性、C評価ユニットの熱交換性能、などが考えられた。標準的合金として、希土類・ニッケル系合金、及びチタン・ジルコニウム・ニッケル系合金の2サンプルを作製して、その特性評価データを収集した。ただ、試作した合金の水素解離圧がそれぞれ異なっていたため、解離圧力が同じになるように測定温度を設定して、水素放出速度の測定を行った。本特性評価ユニットを用いると、実用的に参考になるデータが収集できることが確認できたが、@解離圧を同じになるように組成調整した標準合金を用いての特性データの収集、A標準的評価手法(JIS法)を用いての標準データの収集と実用データとの比較、などが今後の課題として残された。
平成12年度には、1)信頼できる文献データから約300件を選別して、そのPCT線図の単位系を統一しての電子ファイル化とデータベース化を行った。また、2)合金の水素解離圧を40℃付近で約1気圧に調整した標準合金8サンプルを試作して、標準的評価法(JIS法)を用いて統一的に標準データの収集を図るとともに、合金特性評価ユニットを用いて実用的データの収集を行った。
今後の課題としては、@データベースの追加と更新に責任を持つ機関の選定とその財政的なバックアップ、A今回構築したデータベースの既存の国際的公開データベース「Hydride Information Center」へのリンク、B標準合金サンプルの保存や供給、及び標準データの収集に責任を持つ機関の選定とその財政的なバックアップなど、その継続性を維持するための体制が必要とされる。
本データベース事業は、産学官の有機的な連携に基づいて実施されたものであり、実用的にも学問的にも価値の高いものになっている。今後、水素吸蔵合金の材料及び利用技術の分野で大いに活用され、新産業の創製や関連産業の活性化に寄与することが期待される。
最後に、PCT線図の電子ファイル化においては、大阪工業技術研究所の田中秀明主任研究官の、また、標準合金の試作と標準的評価データの収集においては、日本重化学工業(株)MHグループリーダー角掛繁氏の、献身的な努力があったことに深く感謝の意を表したい。
[水素吸蔵合金分科会委員](平成13年2月末日現在) 主査 田村 英雄 大阪大学 名誉教授 副主査 境 哲男 大阪工業技術研究所 エネルギー変換材料部 電池研究室 室長 委員 池田宏之助 佐賀大学 理工学部講師 委員 永井 宏 大阪大学 大学院工学研究科 マテリアル応用工学専攻 教授 委員 竹下 博之 大阪工業技術研究所 エネルギー・環境材料部 金属材料化学研究室 主任研究官 委員 田中 秀明 大阪工業技術研究所 エネルギー・環境材料部 金属材料化学研究室 主任研究官 委員 永田 辰夫 住友金属工業(株) エレクトロニクス技術研究所 エレクトロニクス材料研究部 主任研究員 委員 角掛 繁 日本重化学工業(株) 事業本部 機能材料事業部 マネジャー 委員 兜森 俊樹 (株)日本製鋼所 研究開発本部 開発企画部 課長 委員 盛田 芳雄 松下電器産業(株) くらし環境開発センターFCラボ 主任技師 委員 塚原 誠 (株)イムラ材料開発研究所 研究開発部 主席研究員 委員 北川 惇一 (株)本田技術研究所 和光基礎技術研究センター 第9研究室 チーフエンジニア 委員 木村 良雄 トヨタ自動車(株) 東富士研究所FP部 シニアスタッフエンジニア [委員以外の執筆者] 高橋 昌志 日本重化学工業(株) 筑波研究所 エネルギーシステム研究グループ 主任研究員