■■2023(令和5)年度に実施した事業■■
輸送機器用軽量化板材の二軸バルジ試験方法の国際標準化
(経済産業省委託)
1. 背景
地球温暖化対策には輸送用機器の軽量化が急務であり、アルミニウム合金板及び高強度鋼板(ハイテン)の使用拡大が望まれている。
しかし軽量化板材は延性に乏しく破断し易い、成形後のスプリングバックが大きいなど、成形不具合を起こし易く、自動車等のプレス成形部品への使用拡大の阻害要因になっている。
この難点を解消するには成形シミュレーションを活用して、成形不具合を事前に予測して成形の可否を判断し、試行錯誤のない完成品一発生産を図ることが不可欠である。
2. 目標
本事業は、金属板材から製作した円管試験片に、軸力と内圧を負荷・制御して任意の二軸応力状態下で、降伏から破断までの大ひずみ範囲の応力―ひずみ曲線と成形限界を測定できる二軸バルジ試験方法を国際標準化する。
それにより成形シミュレーションを高精度化して軽量化板材の使用を拡大する。
3. 2023(令和5)年度の成果
2023年度は、国際標準化委員会で二軸バルジ試験方法の規格素案を審議して、NP(新規プロジェクト)提案用の規格案を作成した。
海外のキーパーソンとの連携では、6月にスイスで開催されたNUMISHEET2023 & FTF国際会議に参加してエキスパートと意見交換し、二軸バルジ試験方法の有効性について理解を得た。
また、米国および欧州主要国の代表およびエキスパートと対面・オンラインで意見交換して、日本の提案に対する賛同と協力を要請し、規格提案への協力が得られることを確認した。
さらに、9月に米国で開催されたISO/TC164(金属の機械試験)/SC2(延性)国際会議に参加して本試験方法について講演し、主要国にその有用性をアピールするとともに日本提案への支持を要請し、規格化に対する合意を得た。
また、本試験方法の実用化と普及のため、開発中の普及型二軸バルジ試験機の改修・調整を行い、基本機能および測定精度の確認を行った。
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タービンの遮熱コーティングの予防保全を実現する健全性試験方法に関する国際標準化
(自主事業)
1. 事業の目的
CO₂排出量で国内比率が高い火力発電において、運転温度の高温化による発電効率の向上により省エネルギーを図るためには、タービン用高温部品の耐熱性を上げることが必要である。
このため、タービンを高温環境下での酸化・腐食から防護し、金属基材を低温に保って強度を保持するために、遮熱コーティング(TBC)は不可欠のキーテクノロジーとなっている。
TBCのタービン用高温部品への更なる適用拡大を図るためには、TBCの実機使用環境下での特性と経時劣化を合理的に評価する試験方法の標準化が不可欠となっている。
2. 2023(令和5)年度の成果
2023年度は、「カーボンニュートラル・タービンの遮熱コーティングの健全性試験方法の国際標準化」として、経済産業省の新規国際標準化テーマの公募に応募し、2024年度から3年間の委託事業として採択された。
本テーマは、水素・アンモニア焚きガスタービンを念頭にタービンの信頼性向上と運用コスト低減を目指しており、予防保全のためにTBCの健全性を評価する試験方法についてISO/TC107(金属及び無機皮膜)に提案して国際標準化する活動を産学官連携で行うものである。
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高性能永久磁石の高磁界での磁気特性測定方法の国際標準化
(自主事業)
1. 事業の目的
次世代電気自動車、ロボットをはじめモーターに用いる高性能ネオジム系焼結磁石について、高磁界での磁気特性を測定・評価する試験法として、超電導マグネットを使用するVSM(試料振動型磁力計)法を開発する。
この高磁界磁気測定法をIEC/TC68(磁性合金及び磁性鋼)に提案して日本主導の国際標準化を計る。
これによりグローバル市場での日本製磁石の優位性を顕在化させ、国内関連業界の国際競争力向上に寄与する。
2. 成果
2022年度からは自主事業として、当初目的の国際標準化を図るべく、2021年4月に発行した下記のTR(技術報告書)を基にIEC規格原案を作成した。
IEC TR 63304 : Methods of measurement of the magnetic properties of permanent magnet (magnetically hard) materials in an open magnetic circuit using a superconducting magnet
(超電導磁石を用いる開磁路法による永久磁石の磁気特性測定方法)
2022年度に規格原案をIEC/TC68へNP(新規プロジェクト)提案し、承認された。
2023年度は、CD(委員会原案)を2nd CDまで進めた。
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WAAM積層造形技術と品質評価技術の確立によるガスタービン燃焼器部品の試作開発
(近畿経済産業局補助事業)
1. 背景
肉盛り溶接技術を3D積層造形に適用したWAAM(ワイヤーアーク・アディティブマニュファクチャリング)技術は、リードタイムやコストの点で従来の粉末式3D積層造形技術よりも優れている。
ガスタービン燃焼器用出口フランジは、従来ニッケル合金の圧延板材を加工して製品化しているが、歩留まりが悪い上に納期が長いため、WAAMによる製品化が顧客より期待されている。
2. 目標
本研究開発では、WAAM製法における技術的課題を解決し、対象とする出口フランジを試作し、試作品の特性解析を行うと共に、従来品と比較して品質および性能面で問題ないことを確認する。
また、内部欠陥の検査方法の確立により品質保証体制を構築し、ガスタービン燃焼器部品への適用を目指す。
2. 2023(令和5)年度の成果
2023年度に新規テーマとして提案し、採択された。
シモダフランジと大阪大学により、WAAM製法における技術課題である冷却方法の開発、内部欠陥を低減する造形手法の確立に向けた開発を行った。
また、クリープ性能が優れたガスタービン部品の試作開発に、現行のNi合金圧延材のクリープ強度などの特性調査を完了した。
更に、内部欠陥検査方法の開発も実施した。
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高耐食、高効率、低コストのボイラー管被膜を実現する 飛行中粉末溶融型レーザークラッディング工法の開発
(近畿経済産業局補助事業)
1. 背景
持続可能な社会を構築するために持続可能な開発目標(SDGs)が掲げられている。
中でも地球温暖化問題やエネルギー問題については再生可能エネルギーへの移行やエネルギー効率の改善が急務とされている。
我が国でもカーボンニュートラルが謳われている。電力供給は火力発電が約80%を占めており、主に石炭、天然ガスが燃料として使われている。
石炭火力発電は燃料費が安価である一方CO₂排出量が問題とされ、将来はCO₂削減のため、アンモニア、水素、バイオマス等の混合方式への移行が検討されている。
それに伴いボイラー内の環境はさらに過酷となり、高熱伝導率を維持しつつ高耐久化(メンテナンス効率の向上)が求められている。
2. 目標
発電所等で使用されるボイラー管は激しい腐食環境下で使用されるので、通常、表面に溶射被膜を施すが、耐久性が1年〜2年しかない。
10年間メンテフリーの肉盛り溶接法もあるが、厚膜で熱伝導性が低い、加工費が高額という問題がある。
本研究開発では、飛行中粉末溶融型のレーザー技術と、レーザーの幅広化が可能な回折光学素子(DOE)の技術を組み合わせ、高耐久、薄膜、低加工費で、ボイラー管等に施工できる被膜の加工法を確立する。
3. 成果
2021年度に新規テーマとして提案し、採択された。
大阪富士工業と大阪大学により、飛行中粉末溶融型のレーザー技術とレーザーの幅広化が可能な回折光学素子(DOE)の技術を組み合わせ、発電所等で使用されるボイラー管等に施工できる被膜加工法の開発を実施した。
全目標を達成して、3年間の研究開発を完了した。
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