1 標準水素吸蔵合金の選定と諸特性について

(1)標準水素吸蔵合金の選定

様々な合金系の中から、水素燃料電池自動車や水素エンジン自動車などの運転条件に適合すると考えられる、常温常圧領域での水素放出可能な特性を持った実用的な標準水素吸蔵合金を選定した。選定した合金組成を 表 1-1 に示す。

標準合金@8)〜10)は、AB5型での基本組成であるLaNi5に、特性改善を目的として第三元素のAlを置換した合金である。Alを置換することで水素化物をより安定させることが出来、平衡水素圧を連続的に調節することが可能となる。
標準合金A11)〜21)は、AB5型のA側を混合希土であるMm(ミッシュメタル)として、B側を多元系とした合金である。Mm(NiCoMnAl)5は電池用合金として広く用いられている組成系で、この組成系は大阪工業技術研究所にて体系的に開発が行われた1)。混合希土を使用することにより原料コストを抑えることが出来、また多元系化により平衡水素圧調整と微粉化抑制やヒステリシスの低減を図っている。
標準合金B22)〜25)は、Aをガスアトマイズ法により製造した合金である。ガスアトマイズ法の特徴は、急冷凝固品であるため成分偏析が少なく、耐食性に優れている。また、粉砕行程が不要であり、球状の粉末が得られるため、粉砕法で得られた粉末よりも充填密度を高くすることが出来る。
標準合金C,D26)〜28)は、AB2型のTi(Zr)-Mn系を基にした多元系ラーベス相合金であり、ヒステリシスが比較的小さく水素吸蔵量が大きいため、ヒートポンプ用合金や水素貯蔵用合金として採用されている。
標準合金E,F29)〜64)は、V基固溶体型合金で、有効水素吸蔵量が2wt%以上と大きな値を持っており、水素貯蔵用などへの応用が期待されている。また、Niを添加してTiNi相に集電機能を持たせたV3TiNix系合金による二次電池への応用もなされている。V基合金の原料として非常に高価な純Vを用いると製造コストが掛かるが、最近では純V精錬時の不純物精製プロセスの低コスト化等が開発されてきており、量産時の製造コスト低下が期待されている。
標準合金G65)は、AB2型のTi-Cr2系ラーベス相合金であり、冷凍システム用の合金として開発された。A側(Ti)にZr置換、B側(Cr)にFe等置換することにより、平衡水素圧を低温域まで自由に調整することが出来る。

表 1-1 標準水素吸蔵合金組成
合金組成
@LaNi4.8Al0.2
AMmNi3.79Co0.60Mn0.56Al0.05
BMmNi3.79Co0.6Mn0.56Al0.05(Atomizing)
CTi0.5Zr0.5Ni0.85Mn0.7V0.25Cr0.2
DTi0.515Zr0.485Mn1.2Cr0.8Cu0.1
ETi10V80Cr10
FTi12.5V73Cr12.5Mn2
GTi0.5Zr0.5Mn0.4Cr1.2Cu0.05Fe0.3Ni0.1

標準水素吸蔵合金を選定した機関を以下に記載する。また、それぞれの標準水素吸蔵合金に関連した参考文献および特許を文末に記載したので参照して頂きたい。

<選定機関>
標準水素吸蔵合金@日本重化学工業株式会社
A日本重化学工業株式会社
B住友金属工業株式会社
C松下電器産業株式会社
D松下電器産業株式会社
E株式会社イムラ材料開発研究所
F株式会社イムラ材料開発研究所
G日本重化学工業株式会社

(2)標準水素吸蔵合金の諸特性

表 1-2 に標準水素吸蔵合金の諸特性をデータフォーマット形式で表したものを示す。合金の作製は標準合金Bがガスアトマイズ法により作製し、その他は全てアルゴンガス雰囲気中のアーク溶解により作製した。熱処理は 表 1-2 の備考欄に記している条件で行った。標準水素吸蔵合金は全て常温常圧領域での水素放出可能な特性を持った合金であり、具体的には40℃での水素放出圧力が0.1MPa程度の値を有している。

図 1-1,-2,-3,-4,-5,-6,-7,-8に各合金の20℃,40℃,60℃の PCT特性図を示す。試料の前処理として活性化処理を行った後、水素加圧と真空脱気を3回繰り返して安定化処理を行い、80℃で3時間真空脱気後にPCT測定を実施した。得られた測定結果から、最大水素吸蔵量,平衡圧力,プラトー係数,ヒステリシスファクターを求めた。PCTの測定はJIS H7201-1991「水素吸蔵合金の圧力−組成等温線の測定方法」5)に規定されている真空原点法により7Nの高純度水素を用いて行った。

図 1-9,-10,-11,-12,-13,-14,-15,-16は各温度で測定したPCT特性図から平衡水素圧を読み取り、プロットしたP-T特性図である。P-T線の傾きから水素化物の生成熱量を求めた。

図 1-17 に理学電機(株)製のRINT2000(Cu-Kα)による粉末X線回折測定結果を示す。この回折データから各合金の格子定数を求めた。


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