昨年度に実施した水素吸蔵合金ユニット(日本重化学工業(株)製)による測定結果を報告する。昨年度は、基礎的な評価装置と評価方法を確立し、代表的な2種類の水素吸蔵合金によるユニットとしての水素吸蔵速度および水素放出速度測定を行った。
(1)水素吸蔵合金ユニットの仕様水素吸蔵合金はAB5型であるLmNi4.9Mn0.1と、AB2型であるTi0.73Zr0.27Mn0.8Cr0.85 Cu0.2の2種類を水素吸蔵合金ユニットに充填して評価を行った。それぞれの合金のPCT特性図を図 3-1と図 3-2に示す。LmNi4.9Mn0.1は、60℃で平衡吸蔵圧が約1MPa、Ti0.73Zr0.27Mn0.8Cr0.85Cu0.2は、40℃で平衡吸蔵圧が約1MPaの特性を持った合金である。 水素吸蔵合金ユニットの仕様を表 3-1に示す。それぞれの合金の充填重量は、合金ユニットの性能として評価するために、体積当たりの充填率を50vol%に合わせており、真比重が8.0(g/cm3)のAB5型合金は2518g、6.4(g/cm3)のAB2型合金は2028gを充填した。ユニットの構造は 4(1)項で詳しく説明するが、熱交換形式をシェルアンドチューブ形式とした、ステンレス製の円筒型容器としている。
(2)試験方法水素吸蔵合金ユニットの評価項目としては、ユニットを使用する自動車側の条件に合わせ、水素吸蔵量、水素吸蔵速度、水素放出量、水素放出速度、熱媒の温度変化、内部圧力変化、最大吸蔵流量、最大放出流量、繰り返し寿命特性、ユニットの変形特性などが挙げられる。
水素吸蔵測定は一定の水素圧力により水素を吸蔵させ、水素放出測定は背圧一定のもとで水素を放出させた。表 3-2 に水素吸蔵・放出測定の試験条件を示す。今回使用した合金の平衡圧は、AB5型合金が60℃で平衡吸蔵圧約1MPa、AB2型合金が40℃で平衡吸蔵圧約1MPaと温度によって差があるため、水素吸蔵・放出速度に影響のあると考えられる圧力差、つまり吸蔵測定では平衡吸蔵圧と印加水素圧力との圧力差、放出測定では平衡放出圧と背圧(大気圧)との圧力差を2種類の合金間で合わせるため、熱媒温度を調節して試験を行った。
| 表3-2 試験条件 | ||||
| 吸蔵試験(熱媒流量 2,4,8L/min) | ||||
| 熱媒温度 | ||||
| AB5合金ユニット | 5℃ | 23℃ | 32℃ | − |
| AB2合金ユニット | − | 5℃ | 15℃ | 25℃ |
| 平衡吸蔵圧 | 0.14MPa | 0.30MPa | 0.44MPa | 0.63MPa |
| 放出試験(熱媒流量 2,4,8L/min) | |||
| 熱媒温度 | |||
| AB5合金ユニット | 38℃ | 50℃ | 58℃ |
| AB2合金ユニット | 20℃ | 31℃ | 39℃ |
| 平衡放出圧 | 0.40MPa | 0.62MPa | 0.82MPa |
水素吸蔵合金ユニットの評価に使用した機器を以下に示す。使用する機器の選定にあたっては、JIS H7202-1995「水素吸蔵合金の水素化速度試験測定方法」に定められている機器の精度を参考にした。例えば、圧力測定精度:最大使用圧力で有効数字3桁以上、圧力計の温度ゼロシフト:0.2%FS/℃以下、温度感度シフト:0.03%FS/℃以下、恒温槽温度保持精度:±0.5K、室温測定精度:±0.5Kなどがある。水素吸蔵・放出測定量の規模が小さいため、一概にはこれらの規定を適用できないが、測定機器選定の参考とした。
| 1) | ひずみゲージ式圧力計 | PG-50KU |
| (圧力範囲〜5MPa,零点の温度影響0.02%RO/℃,出力の温度影響0.02%RO/℃) | ||
| 2) | 圧力計アンプ | DPM-712B |
| 3) | 恒温水槽 | BK-43 |
| (温度範囲R.T.〜80℃,温調精度±0.02〜0.07℃,温度分布精度±0.1℃) | ||
| 4) | 水素用質量流量計 | HFM-200W/LS |
| 5) | その他機器 | 熱媒流量計、熱電対、熱媒循環ポンプ、 |
| 熱媒流量調節バルブ、PC 等 | ||
水素吸蔵合金ユニットの試験結果を 図 3-3,-4,-5,-6,-7,-8,-9,-10,-11,-12,-13,-14,-15,-16,-17,-18,-19,-20,-21,-22,-23,-24,-25,-26,-27,-28,-29,-30,-31,-32,-33,-34,-35,-36,-37 に示す。 それぞれの図には、水素吸蔵・放出量(NL)、水素流量(NL/min)の経時変化の様子を示している。 全般的に見られる挙動として、吸蔵特性データの場合、水素吸蔵を開始した直後から水素を急激に吸蔵し、数秒から数十秒でピーク値を迎える。 また、水素の吸蔵に伴い、熱媒の出口温度は生成熱による発熱により急速に温度上昇し、約1分以内に温度上昇のピークを迎えることがわかる。 また、水素の吸蔵量(積算値)を見ると、何れの条件でも7〜12分で全ての水素の吸蔵を終了していることがわかる。 放出特性データの場合、水素放出を開始した直後から、水素を急激に放出し、数秒から数十秒で放出速度のピークを迎えることがわかる。 また、水素放出に伴い、熱媒の出口温度は生成熱による吸熱により急速に温度が下がり、熱媒流量にもよるが約1〜2分以内に温度低下のピークを迎えることがわかる。また、水素の放出量(積算値)を見ると、何れの条件でも10〜20分で全ての水素の放出を終了していることがわかる。
各合金の吸蔵・放出測定における総吸蔵・総放出量の80%を吸蔵放出するのに要した時間と吸蔵放出速度を 図 3-38,-39,-40,-41,-42,-43,-44,-45 に示す。吸蔵測定は、熱媒温度を低く熱媒流量を多くしたほど、また放出測定は、熱媒温度を高く熱媒流量を多くしたほど80%吸蔵または放出に要した時間は短くなっており、水素吸蔵・放出速度が熱媒の温度と流量に依存していることがわかる。今回は、吸蔵測定では平衡吸蔵圧と印加水素圧力との圧力差、放出測定では平衡放出圧と背圧(大気圧)との圧力差を同一にして試験を行った。熱媒温度を変えているため、単純な比較は出来ないが、吸蔵速度はAB5合金ユニットが速く、放出速度はあまり差が見られなかった。今回の測定結果から、幾つかの合金種の吸蔵放出を比較する場合、それぞれの合金の平衡圧特性を同一にすることが重要であることがわかった。また、今回使用した水素吸蔵合金ユニットを用いることにより、実用的に参考になるデータが得られることが確認された。