4 水素吸蔵合金ユニットの水素吸蔵速度および水素放出速度測定(平成12年度)

昨年度の結果を踏まえて、今回は平衡圧特性をほぼ同一にした、1項で選定した標準水素吸蔵合金8種類の中から表 4-1に示す AB5型、AB2型、固溶体型それぞれ1種類の計3種類を選び、水素吸蔵合金ユニット(日本重化学工業(株)製)による水素吸蔵速度および水素放出速度測定を行った。

表 4-1 供試水素吸蔵合金組成
合金組成
BMmNi3.79Co0.60Mn0.56Al0.05(Atomizing)
CTi0.5Zr0.5Ni0.85Mn0.70V0.25Cr0.20
FTi12.5V73Cr12.5Mn2

(1)水素吸蔵合金ユニットの仕様

ユニットに使用した標準合金を、合金Cは誘導溶解炉で、合金Fはアーク溶解炉で新たに作製した。作製した合金の特性は 1(2)項に示したそれぞれの標準合金の諸特性とほぼ同一のものが得られた。合金Bは、引き続き同一ロットを使用した。

水素吸蔵合金ユニットは昨年度と同一のものを使用した(図 4-1)。ユニットの写真を写真4-1,-2,-3,-4,-5,-6に示す。水素吸蔵合金は直径48.6mm、肉厚2.8mm、長さ524mmの容器に充填し、直径60.5mm、長さ580mmのジャケット内に装填している。ユニットは合金の活性化時の圧力に耐えうるため、ステンレス製の円筒容器による耐圧設計としている。熱媒通路は水素吸蔵放出に伴う反応熱との熱交換を速やかに行い必要な水素吸蔵放出速度を確保するため、熱媒ジャケットと合金充填容器の間と、合金充填容器内を流れる三重管構造となっている。また、合金層の熱伝導を改善するため、アルミ製の伝熱改良材を挿入し、微粉化した合金の流出を防ぐため、ステンレス製焼結フィルターを使用している。フランジ部には熱媒入口と出口通路の他に、水素ガス配管に付属している合金温度と、ジャケット内部の熱媒温度を測定するための熱電対用継手を設けている。

水素吸蔵合金ユニットの仕様を表 4-2 に示す。それぞれの合金の充填重量が違うが、合金ユニットの性能として評価するために、体積当たりの充填率を全て約50vol%に統一している。合金Bはアトマイズ品で粉末形状が球形であり、粒度分布も細かな-150meshのものが98wt%以上を占めていたため、目標とする充填量を充填するのは比較的容易であった。合金C,Fは、機械粉砕により得られた粉末を16〜150meshに篩い分けをして充填することにしたが、合金Cは目標通りの粉末が得られたため合金Bと同様に充填作業は容易であった。しかし、合金Fは延性が高く、機械粉砕では目標とする粒度まで粉砕できなかったため、粒度が-3mmとなった粉末を全て充填した。粗いものと細かな粉末を混合させることで、目標とする充填量は確保できた。

   
表 4-2 水素吸蔵合金ユニットの仕様
水素貯蔵量(NL)40℃PCT特性図の水素圧力3MPa地点の水素吸蔵量から概算した値
ユニット重量(g)合金充填容器、熱媒ジャケット、熱媒継手、水素ガス出入口継手、熱電対継手の合計重量(合計5455g)
ユニット体積(L)熱媒ジャケット部を含んだ体積(合計1.643L)
ユニット総重量(g)=合金使用重量(g)+ユニット重量(g)
体積充填効率(NL/L)
水素貯蔵量(g)
ユニット体積(L)
重量充填効率(wt%)
水素貯蔵量(g)×100
ユニット総重量(g)

(2)試験方法

水素吸蔵合金ユニットを試験装置にセットし、活性化処理した後に安定化処理として水素吸蔵放出を3回繰り返した。水素吸蔵測定は一定の水素圧力により水素を吸蔵させ、水素放出測定は背圧一定のもとで水素を放出させた。表 4-3 に水素吸蔵・放出測定の試験条件を示す。熱媒の温度と流量を変えることで、水素吸蔵・放出速度にどの程度の影響を与えるのか、傾向を確認した。

表 4-3 試験条件
吸蔵試験放出試験
熱媒温度20℃40℃60℃80℃
熱媒流量2L/min, 4L/min2L/min, 4L/min2L/min, 4L/min2L/min, 4L/min

   1)水素吸蔵速度測定
  1. a)測定前の初期放出状態を60℃-大気放出の状態にする。
  2. b)ユニットに測定温度の20℃または40℃の熱媒を所定の流量で流し、合金温度を一定にする。
  3. c)ユニットと試験装置間のバルブを開き、水素圧力1MPaで水素を吸蔵させる。
  4. d)水素吸蔵量と各部温度変化を1秒間隔で計測する。
 2)水素放出速度測定
  1. a)測定前の初期吸蔵状態を、充分に水素を吸蔵させた状態から、測定温度である60℃または80℃の熱媒をユニットに流しながら徐々に水素を放出させ、水素圧力を合金B,Cは1MPa、合金Fは2MPaに設定する。
  2. b)ユニットに測定温度の60℃または80℃の熱媒を所定の流量で流し、合金温度を一定にする。
  3. c)ユニットと試験装置間のバルブを開き、放出される水素を大気圧下に放出させる。
  4. d)水素放出量と各部温度変化を1秒間隔で計測する。
(3)試験装置

試験装置の構成図を 図 4-2 に示す。また、使用した機器を以下に示す。水素吸蔵合金ユニットの試験装置は、水素ガスボンベ、水素用圧力調整器、水素圧力計、水素ガス用ステンレス配管、水素用ベローズバルブ、水素流量測定用質量流量計、熱媒温度調節用恒温水槽、熱媒循環ポンプ、熱媒流量計、熱媒流量調節バルブ、熱電対、データ記録計、PCより構成されている。

水素吸蔵量は、水素圧力計を用いて水素圧力の減少量より求めた。水素放出量は、蓄圧器内に水素を放出させてその圧力変化量から求めようとすると、大型の蓄圧器が必要であり現実的ではないため、大気圧下へ放出される水素を質量流量計を用いて測定した。

1)圧力計(ひずみゲージ式)PG-50KU
2)圧力計アンプCDV-230A
3)記録計LR12000E
4)恒温水槽BK-43
5)水素用質量流量計HFM-200W/LS
6)その他機器熱媒流量計、熱電対、熱媒循環ポンプ、
熱媒流量調節バルブ、PC 等

(4)試験結果

水素吸蔵合金ユニットの試験結果を図 4-3,-4,-5,-6,-7,-8,-9,-10,-11,-12,-13,-14,-15,-16,-17,-18,-19,-20,-21,-22,-23,-24,-25,-26に示す。それぞれの図には、水素吸蔵・放出量(NL)、水素流量(NL/min)、熱媒入口温度(℃)、熱媒出口温度(℃)、合金温度(℃)、容器表面温度(℃)の経時変化の様子を示している(合金Fの合金温度は、ユニット作製時のトラブルにより計測できなかった)。吸蔵測定では、測定開始直後から水素を急激に吸蔵し始め、水素吸蔵による発熱反応により合金温度が上昇し、合金B,C共に数十秒後には合金温度が最高温度となり約100℃にまで達している。それと共に熱媒出口温度が上昇し、合金温度のピークに数秒遅れて最高温度に達している。容器表面温度は、温度の上昇する時間が遅く、吸蔵開始から約1〜2分後に最高温度に達している。吸蔵終了までに要する時間は、合金B,Cは5〜6分程度、合金Fは10〜15分程度となっている。放出測定でも、測定開始直後に急激に水素を放出し始め、吸熱反応により合金温度が下降している。合金温度変化の挙動は吸蔵時とは違い、合金温度が低下した状態が平坦に長く続いている区間があるものが多い。放出終了までに要する時間は、合金B,Cの熱媒温度60℃では20〜25分、80℃では12〜15分程度となっていて、合金Fは熱媒温度60℃では25〜30分、80℃では20分程度となっている。

各合金の吸蔵特性表と放出特性表を表 4-4,-5,-6,-7,-8,-9に、吸蔵・放出測定における総吸蔵・総放出量の80%を吸蔵放出するのに要した時間を図 4-27,-28,-29,-30に、吸蔵放出速度を図 4-31,-32,-33,-34 に示す。

吸蔵測定は、熱媒温度を低く熱媒流量を多くしたほど、また放出測定は、熱媒温度を高く熱媒流量を多くしたほど80%吸蔵または放出に要した時間は短くなっており、水素吸蔵・放出速度が熱媒の温度と流量に依存していることがわかる。80%吸蔵に要した時間は、合金B,Cが20℃、40℃共に2分程度となっているのに対し、合金Fは20℃では約3倍、40℃では約4倍の時間が掛かっている。この差は、他の合金と比較して合金Fの平衡吸蔵圧は高いため、吸蔵速度測定時の印加圧力と平衡吸蔵圧との圧力差が他の合金より小さくなっている影響によるものである。80%放出に要した時間は、3合金共に熱媒温度60℃では12〜18分程度、熱媒温度80℃では6〜8分程度の範囲となっている。


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